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「社会のリーダー」を目指し、ノートで育む基礎学力

「社会のリーダー」を育成する洗足学園小学校校長の吉田英也先生にリーダー育成のための教育内容、主体的な学び、ノートの活用方法についてお話を伺いました。

対象学年
小学生(1~6年)
科目
その他

洗足学園小学校について

 洗足学園小学校は、神奈川県川崎市高津区にある洗足学園音楽大学に併設の小学校です。同大学溝の口キャンパスと同一の敷地内に設置されています。敬虔なクリスチャンであった前田若尾先生により創立。謙虚にして慈愛に満ちた心をもち、社会に奉仕貢献できる人材を育てることを建学の精神とし、社会にあってリーダーの役割を果たす人材の育成を目指し、独自の指導を行っています。

小学校教育に求められていること、めざすは「社会のリーダー」の育成

 本校の描く「リーダー」とは、人や社会に貢献し、社会をより良い方向へ導いていく人材です。とりわけ、21世紀の先行き不透明な社会において、我々が向かうべき方向をつねに考え、そこへ導いていくような活動ができる人を育成したいと考えます。そのためには、知性、教養、物事を深く理解する力や、あきらめない心、思いやりの心などを養うことが大事です。

 本校の子どもたちは、ほぼ全員が卒業後の進路として有名私立国立中学をめざします。学校としても確かな学力を培う教育に力を入れており、中学受験への対応も充実しています。同時に心の教育も、学力面に手厚い教育を行っているからこそ、それと同じくらい重きを置かなくてはいけないと考えます。学力の教育と心の教育を両輪として重視しているのです。

 心の教育として、「道徳教育」、「学校行事」、1年生から6年生までの縦割り班で遠足やスポーツ大会など様々な活動をする「縦割り活動」の三つの柱を据えています。
 道徳教育では、具体的なテーマを挙げて考えさせます。たとえば、運動会の練習に協力しない子がいる、どうしたらいいだろうかなど。子どもにとって身近なテーマについて、みんなで意見を出し合うことが大切です。そのことが、実際の運動会の練習の場で、協力や責任というものへの気づきに結びついていくからです。

 運動会や学芸会など学校行事では、全員で力を合わせて成し遂げなくてはなりません。ときに衝突やけんかも起きる。その機会に、どうすればいいのかを考えさせます。そうした経験によって、目の前の課題を乗り越えていく力が身に付くのだと思います。それがリーダーとして必要となる責任感や使命感を養うことにもつながっていくのではないでしょうか。

 授業でも、グループで調べたり発表したりなど、子どもたちは仲間との活動を通して、役割や責任を果たすことを学んでいます。また、学び合いや教え合いも取り入れます。特に高学年ではこれを多く行います。たとえば、算数では子ども同士で教え合う。これは友だち同士の関わりを経験するだけでなく、学力面にもプラスになります。教えてもらう側の子どもの理解につながるし、教える側に立った子どもにも効果がある。自分の直感で理解していることを、友だちに筋道立てて教えることで考えが整理され、論理的な理解へと深めることができるからです。

 本校には、学力の高い子どもが入学してきます。でも、入試では学力だけを重視しているのではありません。入試で見ているのは、普段の生活の姿です。どんな考え方や行動をしているのかを知りたいと思います。受験勉強よりも、普段のしつけが大切です。人の話がきちんと聞ける、友だちと仲良くできる、善悪の判断がつく……これらはすぐに身に付くものではありません。時間をかけて積み重ねて教えていくものです。すると、子どもが自分で判断できるようになってくる。そうした姿を見たいと思います。ですから、入試ではペーパーだけで選抜するのではなく、行動観察や面接など総合的に見ていきます。

ICTを活用した「主体的な学び」から見えるノートの価値

 本校では、児童一人一台のiPadを活用し、自ら調べ、発表し、議論するスタイルの学習、すなわち主体的な学習をすすめています。発表は、自分のiPadをプロジェクターにつなげて、発表のために作成した画面や、書き込んだ文章、動画などを見せながら行います。
 こうしたICTを活用する学びは、ただ単に先生から教えてもらったことを覚えて、書くというのではない活動です。先生が板書したものをノートに書き写すというのがこれまでのやり方ですが、これからは自分たちが調べ、発表して、質問を受けて、議論する。そこはかなり主体的な学びになっていくと考えます。この学習によって、学ぶ内容もさらに深まります。

 また、自ら調べた資料や、自分が考えて作成した算数の問題など、いろいろなものをiPadに保存しておくことができます。それをいつでも取り出して、確認したり、検討したりすることができます。しかも、みんなで共有することができる。iPadを活用することで、全員の意見や考え方、解き方を一覧にして見ることもできるわけです。これまでだと、手を挙げた子どもの発言だけがクローズアップされましたが、普段手を挙げない子どもの解き方や考えなども見ることができる。たとえば、先にお話しした道徳の授業でも、運動会の練習に協力しない友だちがいたらどうするか、罰を与えるという意見が出たとします。それに対して、そうするべきではないという意見も出てくる。iPadを活用して自分の考えを書き込み、全員で共有することで、自分と同じ考えの人がいれば、まったく反対の考え方を持つ人もいるのだと気づくことができます。
 
 ICTを積極的に活用しつつ、紙のノートのよさを活かしたいと思います。たとえば、算数では計算の途中式などノートに書き残しておきたいものもあります。もちろんiPadにデータとして残すこともできるのですが、紙のノートだとページをめくりながら順に見て行き、たやすく振り返ることができます。パソコンにデータとして保存すると、その量が多くなるにつれ必要なときに必要な情報を即座に探し出せないこともありますが、ノートに書き残してくと、整理がしやすく、探しやすいというメリットがあります。

しっかりとした字を書く練習が必要

 iPadには電子ペンを用いて書き込むのですが、どうしても字が汚くなります。筆圧も弱くなってしまいます。その点、紙のノートは筆圧を込めて書かないと読みにくい。だから、自然としっかりと書くようになる。それもノートのよさです。また、パソコンに書き込んだ文字は自動的に漢字に変換されるので、よけいに漢字を覚えなくなってしまいます。ノートに書くことで、覚えられるのです。中学の入試も、キーボードを打って解答を書くわけではないので、紙のノートに書く練習が必要ですね。

 しっかりとした字を書きましょう、分かりやすく読みやすい字を書きましょうということを大きなねらいとして、子どもたちは本校オリジナルの「日記漢字ノート」を用いて学んでいます。これは単なる漢字練習帳ではありません。日記を書き、漢字の練習もして、毎日先生に提出します。
 国語の学びでは、漢字をきちんとと覚えて書けること、そして、文を書けることが大きなベースとなります。「日記漢字ノート」は、そうした基礎をしっかりと身につけるための練習ノートです。6年間で数十冊になります。

 「読破ノート」もオリジナルのものです。本校では毎朝20分間の読書タイムを、さらに週1回読書の授業の時間を設け、本をたくさん読むことを奨励しています。そして、「読破ノート」に自分が読んだ本の題名と、短い感想を記録していきます。1冊の読破ノートが記録で一杯になると、ちょうど100冊の本を読んだことになる。そして、次の新しいノートに切り替えます。

 本校の図書室には児童全員の名簿が掲示されているのですが、新しい読破ノートに進んだ子どもは、自分の名前のところにシールを1枚貼ってもらえます。1年生からスタートして自分が何冊読んだか、シールを数えれば一目でわかる。読書量の多い子どもだと、年間300冊くらい読みます。3年生、4年生で1000冊以上の本を読む子どももいます。図書室の蔵書は1万5千冊、学級文庫も300冊はある。そこから選んでもいいし、自分の家から持ってきた本を読む子どもも多くいます。

学習習慣を身に付けるためにご家庭へお願いしていること

 家庭学習はとても大事です。特に中学受験を考えている場合は、家庭でしっかりと学習する習慣が身に付いていないといけません。そこで、本校では1年生の最初の段階から毎日宿題を出します。「日記漢字ノート」も毎日書いてもらいます。家に帰ったら必ず一定の時間机に向かって勉強することを習慣づけていくのです。
 ご家庭には、宿題の丸つけをお願いしています。それによって、わが子がいま学校でどんなことを学んでいるのかがわかります。また、わが子はどこが苦手なのかが分かってくるのですね。そこで、苦手な部分は家庭でも補強してくださいとお願いしています。理解が充分ではないところは問題集で類似問題を解かせるなど、しっかりと復習させてくださいと、協力をお願いしているのです。低学年は国語・算数がメインですから、そこから宿題を出し、丸つけをしてもらいます。現在はiPadを用いて提出してもらっています。

 こうした家庭との連携については入学前から伝えているので、ほとんどの保護者の方が協力的です。でも、高学年になってくると算数の問題なんかは親でも解けないものが出てくる(笑)。解答集を渡してあるので、それを見て丸つけしてもらえばいいのですが。ご家庭で教えられないことについては、先生に聞きなさいと言ってもらうようにしています。

 大切なのは、宿題の丸つけを通して子どもといっしょになって勉強するスタンスをとることです。それをご家庭にお願いしているのです。
 中学受験というのは親子一体型の受験といわれています。親が一緒になってやらないと、おおかたの子どもはうまくいきません。小学生ではたとえ自分一人の力でできる子がいたとしてもほんのわずか。高校受験や大学受験になると、本人に任せるのは当たり前だと思いますが、中学受験では本人任せや学校・塾にお任せの家庭は結果的にうまくいかない傾向があります。

求められているのは、自分事としてとらえ主体的に動ける力

 私は中学受験のための勉強が、実は本人にすごい力を身に付させることになると思っています。というのも現在の中学入試は、ただ知識があれば答えられるとか、パターンに当てはめて考えれば解けるといった問題は少なくなっている傾向だからです。知識も必要であり、さらにそれを活用する力が必要になっています。入試問題として、全く見たことも聞いたこともないような新しい話題が出され、そこから読み解く力が問われたり、様々なデータが提示され、それを分析してどのような結論が導かれるのかを答えたりしなくてはいけません。

 したがって、中学受験の勉強を通して読解力や分析力、発想力、問題を発見したり解決したりする力が身に付くと考えます。今は、こうした力を育むことこそが、小学校や中学や高校など、すべての学校に求められています。なぜなら将来社会に出たときに、この力がだれにとっても必要となるからです。
 世の中には、中学受験のために夜遅くまで塾に通ったりするのはよくない、子どもはもっとのびのびと遊ぶほうがいいのではないかという意見があるのは当然だと思います。でも、プラスの面もあるのです。入試に関する様々な問題を解いていくなかで養われる力は、そのまま社会に出て役立つ力となります。その力を備えることが、AIなどロボットにはこなすことのできない仕事に就くことにつながっていくのではないでしょうか。
 このほか社会で必要とされる力として、コミュニケーション力があります。本校では友だちとの学び合いなど協働学習をしたり、いっしょに行事に取り組んだりするなかで、コミュニケーション力を育んでいきます。

 最後に、本校が教育目標として第一に掲げるものについて触れておきたいと思います。それは「なにごとも自分で考えて、行動のできる子」です。こうした子どもの主体性を育むためには、物事を自分事としてとらえ、興味関心があるからもっと調べてみたい、深めてみたいと自ら思えるような学びが必要です。その学びとして最も大切になるのが体験学習です。たとえば社会科の校外学習では、国会議事堂や首相官邸を見学に行きます。官房長官が記者会見する場所などを案内してもらい、自分の目で実際に見てくる。後日、ニュースで官房長官の記者会見を目にしたとき、自分はあの場所に行ったことがあると思っただけで、そのニュースへの興味関心の度合いが違ってくるはずです。

 小学生は特に体験が大切だと考えます。本校の子どもたちは校内で野菜の栽培なども体験しています。苗を植え、だんだん大きくなって、花が咲き、実が成り、枯れていく、その過程の初めから終いまで全部、毎日観察できるわけです。茎や葉、実の手触りとか匂いとかも感じることができる。小学生のうちは、そうした五感を使った学びがすごく大事です。やがて中学生、高校生に成長すると、書物からの知識を得ながら学びをすすめていけるようになる。体験はその土台となるのです。だからこそ、いい体験をさせたい。それが小学校としての重要な役目の一つであり、本校はこれからも体験学習を充実させていきます。

洗足学園小学校
〒213-8580 神奈川県川崎市高津区久本2-3-1
TEL 044-856-2964
https://www.senzoku.ed.jp/

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